2022-11-27
本記事では、前回に引き続き小売業界の業界の特徴と、その中で行われているDXの事例について詳しく解説を行っていきます。
小売業界を取り巻く外部環境と、その背景については全開の記事でご紹介しましたので、是非そちらをお読みいただいてから本記事をお読みください。
本記事では、主にDXについて、その概要と事例について下記でご紹介をしていきます。
どうぞお楽しみに!
1.
DXの流れ
2.
小売業のDXトレンド
3.
DXの現状と事例(百貨店)
4.
DXの現状と事例(スーパー)
5.
DXの現状と事例(コンビニエンスストア)
6.
まとめ
前述した外部環境によって生まれた課題を整理すると
【課題】
・消費者の生活様式に合わせた購買環境整備
・人手不足や働き方改革に応じた店舗業務の効率化
・ECとリアルを連動させた購買体験を構築することによる機会損失の防止
の大きく3点があり、その課題を解決するためにデータ利活用を始めとするDX化が重要視されています。
その流れとしては、主に
①デジタイゼーション
ツールを駆使して、特定の業務や動向のデータを収集し、データを蓄積できる環境を整える。
②デジタライゼーション
収集した情報を元に、一連の動作や業務のフローを最適化、効率化させる。
③デジタルトランスフォーメーション
今までの一連の動作や業務フローの最適化を通じて、新たな価値提供の姿を見出し、ビジネスモデル全体をデジタルなものに変革する。
という流れに応じて進んでいます。
小売業界に関して言及すると、外部要因に関するデータ(天候、価格、催事状況など)や、内部要因に関するデータ(購買履歴、個人情報など)を様々な方法で収集することからDX化は進んでいきます。
そうして集まった膨大なデータを解析、分析することで目的に対して不要な点を削ぎ落し最適化、効率化を行うことで利便性が高まっていくデジタライゼーションを迎えます。
その連続を通して、微細な消費者動向の変化をあらかじめ予測したり、まだ顕在化していない新たな消費者ニーズをいち早く捕らえ提供することのできるデジタルトランスフォーメーションの段階へと変化していくと考えられています。
そうした流れを鑑みると、小売業界という業界の中でデータ分析やAIを用いてDX化を進めていくことのできる領域は下記のようになります。
2-1. 店舗・商品開発領域
・出店計画最適化
・商品開発
・品揃え最適化
2-2. 生産・仕入領域
・発注数量最適化
・プライス最適化
・棚割最適化
2-3. マーケティング領域
・ターゲット最適化
・コンテンツ最適化
・タイミング最適化
2-4. 接客・販売領域
・会員ペルソナ推定
・コンシェルジュ
・レジ/シフト最適化
それぞれ、内容をみていきましょう。
コンビニエンスストアやスーパーマーケットをイメージするとわかりやすいですが、様々な商品を展示販売するだけでなく、そのレイアウトや立地によって大きく売れ行きが変化します。
また消費者のニーズをとらえた商品を、メーカー側ではなく小売り側からプライベートブランドとして販売することで、より利益率の高い経営を可能にすることが出来ることからも、店舗・商品開発の領域でのデータ利活用を行った最適化は重要であることがわかります。
実際の事例も簡単に交えながら、具体的な取り組みを下記にご紹介します。
・出店計画最適化
コンビニエンスストアなどが最たる例になりますが、店舗出店を行う小売業にとって戦略的に出店計画を立てることは大変重要となります。
店舗数が少ない場合や、土地勘のある場所では経験と勘でどうにかなることもありますが、首都圏のように店舗数が多くなり、広域に分布する場合には、経験と勘だけでは実現不可能となります。
そういった場合に、競合店・既存店等の店舗データや、空き店舗や土地のデータ、人口等のポテンシャルデータを活用して出展するにあっての最適地の候補を明確な根拠に基づいてシミュレーションするという取り組みとなります。
・商品開発
従来の商品開発では、リサーチ会社によるアンケートや定性調査によって過去の購買体験や、疑似的に購買の瞬間を再現することで、消費者がどのような商品を求めているのかを分析し開発に役立てるという方法がとられていました。
ある程度信頼性のある結果を得るためには、一定数母集団を確保する必要があり手間もコストもかかる上に、限定的なタイミングでしか消費者の意見を反映することができないという特徴がありました。
ところが、現在のSNSやリアルタイムでレビューが記載される状況下では例えばSNSでの発信の量や内容。またその投稿がどれだけの人に閲覧され、購買行動を引き起こすきっかけとなったか等アンケートでは消して見えなかった購買を促す要因や特徴を可視化することが出来るようになりました。
このように、より多くのニーズにこたえることが出来る商品開発を可能にするという取り組みとなります。
・品揃え最適化
店舗の陳列に際して、品揃えが重要であることは言うまでもありません。
特定の商品を取り扱う専門店なら別ですが、基本的にはついで買いや、まとめ買いといった一人の消費者が最大限購買を行ってもらうことのできる状況を作ることで、売上の最大化を望むことが出来ます。
品揃えが悪いと、それだけ機会損失に繋がってしまいますが、かといってあれも、これもと揃えてしまうと、過剰に在庫を抱えてしまい余計なコストがかかってしまいます。
そのような状況下で、対象商品リストや売上情報をもとに数理最適化技術を用いて売り上げ効率を上げる商品の組み合わせを自動で算出するという領域の需要が高まっています。
またそれだけでなく、仮に店舗から陳列を辞めたとしても売上の減少にそこまで影響を与えないといういわゆる死に筋の商品を特定するといったことも可能であり、データ利活用が重要視される取り組みです。
小売業において、仕入の最適化は経営に直結する重要な内容になることは言うまでもありません。メーカー側や、卸から商品を仕入れ店舗に陳列するという商流において、仕入が不足する場合、売上を伸ばす機会損失となってしまいますし、はたまた仕入がかさむとその分店舗の売り場面積をひっ迫するだけでなく、食品などの場合廃棄を生んでしまう恐れがあります。
その為、どれくらいの量があらかじめ売れていくのかを予測し、最適な仕入を実現することは必須といっても過言ではない領域となります。
そのような領域におけるデータ分析AIを活用したDXの取り組みを見ていきましょう。
・発注数量最適化
上記にも述べたように、発注の数量を最適化することは収益の最大化にとってマストといってもよい取り組みとなります。精度の高い需要予測を実現することで、陳列棚の売れ筋商品への入れ替えなどといった、売上の拡大とコストの低減の両方を実現すること可能となるため、基本的に過去の販売データと、在庫データを用いて
・時間ごとに需要量の増加傾向を把握、各商品の将来的な想定需要量を予測。
・在庫の状況と購買の状況から、在庫と収益の関係をモデル化
等のアプローチを実施して、収益の最大化の実現を目指す取り組みが進んでいます。
・プライス最適化
仕入と同様に重要になるのが価格設定です。
小売という業態上、どうしても仕入のコストがかかってしまうため買ってもらえればそれでよいというわけにはいかないことはご想像の通りかと思います。
とはいえ、頑なに値下げをせず在庫として死に筋となってしまった商品を保有し続けるということも機会損失や所有コストの増大を招いてしまいます。
その為、競合他社の価格データや店舗の在庫状況などの様々なデータをもとに機会損失にならずかつ、利益の最大化を狙うことのできる価格の決定という取り組みに注目が集まっています。
・棚割最適化
消費者が消費を手に取る際に重要な戦略となるのが棚割です。
売上や業績から、陳列数商品や数を決められたとしても、その商品をどのような位置に配置するのかという陳列の問題はどうしても勘や経験に頼りがちになってしまいがちです。
また、一定数多くの消費者に共通する購買行動のパターンはありつつも、商品の好みが細分化した現代では、本当に届けたい対象に商人を手に取ってもらうための棚割りを実現することは勘や経験だけでは難しいという現状があります。
そんな棚割りにデータ活用を適応し、消費者の属性ごとの行動パターンや商品の接触回数や計画高倍率等のデータを分析して、ターゲットとなる消費者や商品のブランドに合わせた適切な棚割りを実現するという取り組みとなります。
商品と消費者を繋ぐ小売業という業界では、商品の魅力を適切な対象に届けるというマーケティングの観点は非常に重要になります。
特に、中間コストを排除しよりダイレクトに商品を届けることが出来るようになった現代ではメーカーとは異なった形で消費者が訪れたくなるような空間を作る必要があることは言うまでもなく、良い物を置いておけば自然と売れていくという状態ではないからこそ、明確な根拠を持ち、スピード感をもって消費者の動向に適応していく必要があります。
それではそのような、小売のマーケティングの領域でどのようにデータ活用やAIが用いられているのか見ていきましょう。
・ターゲット最適化
一人一人の好みやライフスタイルが細分化している現代で、商品の魅力を届ける相手をしっかりと分析することはとても重要になります。
類似商品の購買データや、過去の交流履歴、顧客データなど一連の購買に至るまでの過程の情報を収集し分析することで、数十万人の顧客の内、最も商品を購入する可能性が高い顧客属性を抽出したり、個々の顧客へ最適な商品をレコメンドする
といった取り組みが注目を集めています。
・コンテンツ最適化
主に、専門商品を扱う小売店での活用が期待される取り組みとなりますが、現在注目される専門店は明確でわかりやすいコンテンツを扱っている者から”○○らしさ”という抽象的でしかし、感覚に訴えかけてくるようなコンセプトを専門に扱うものまで様々となります。
このように、わかりづらいけれども消費者の中に確かに存在する概念を、コンテンツに反映させるためには、膨大な顧客データや、購買の背景や理由を紐解き、求められる感覚やイメージをしっかりとコンテンツに反映させていくコンテンツの最適化という取り組みも注目を集めています。
・タイミング最適化
よほど高額で、どうしても購入したいというものでない限りは、まずは試しに買ってみて、という消費者も多く存在しています。
そんな消費者にとってはタイミングは非常に重要な要素となります。まさに試してみたい気分のときに、試してみたい気分にさせてくれる。逆にタイミングを逃すと、興がそがれて購買には至らない。
そのシビアなタイミングを突き詰めることで、機会損失を起こさず、消費者との接点を確実に紡いでいくことが出来るような、とても重要な取り組みとなります。
小売店舗にとって消費者と商品をつなぐ現場となるのが、接客販売の領域となります。ECなどで簡単にお目当てのものを購入できるというストレスフリーな状況になったからこそ、従来の販売や接客の対応だと”物足りない””サービスが行き届いていない”という判断がなされてしまう程、実際にリアルの場で接客販売を受けることの意味が増してきました。
また様々なテクノロジーが最も消費者の目に見える形で現れるため、広く認知されていたり、取り組みが明確だったりと何かと話題になりやすい領域となります。
・会員ペルソナ推定
前述のマーケティングの領域でも述べられたように、適切な対象の諸費者に、適切なタイミングで、適切な商品を届けることが当たり前になりつつある現代では、商品を購入した方や会員となった層の購買データのみならず、画像や音声などといった様々なデータから、最も購入に結び付きやすかったり、コアなファンになってくれる層がどのような層なのか、を推測することが可能です。
小売店にとってより力を入れて顧客獲得に務める対象がどのようなそうなのかを正確に予測することで、実際の販売現場での行き届いたサービスに活用できたりと、まさに”痒い所に手が届く”クオリティの高いサービス提供が可能なる取り組みとなります。
・コンシェルジュ
複数の質問に答えるだけで、適切な商品をお勧めしてくれたり、ふと疑問におもったことを適切なタイミングで回答してくれたり、と。一連の購買体験をストレスなく、またそれどころか一味も二味も違ったものへと変えることができる人工知能を用いたコンシェルジュサービスという取り組みも注目を集めています。
もはやお目当てのものを購入するだけではなく、購入するまでの購買体験そのものを楽しめるという点がオンラインではなく、リアル場で求められるようになりました。
まさにそのような現場で一人一人にマッチする行き届いたサービスを提供するために、数多くの購買データや、快適な購買体験につながる要素を膨大な変数から導き出し、提供する取り組みとなります。
・レジ/シフト最適化
小売店の良さの一つとして、最終的な購買を人と人とで行うという点にありますが、それでもやはり買い物をする際にレジに並んだり、また店員側でもお客さんが少ないのに人が余ってしまう場合や、逆に大量のお客様が来店しているにもかかわらずまったく人手が足りないという状態は、店員、お客様双方にとってストレスのたまる状態となります。
そのような状況を改善するために、例えば天候や催事などの外部要因から世の中のトレンドといった購買に影響を与える様々な要因から、想定される来客数を予測し少なすぎず、多すぎることのないシフト管理を実現することが可能です。
また、購入の際にストレスなく購買ができるように無人で決済ができるスマートレジシステムや煩わしい金額の入力を行わなくて済むように、レジに並ぶ前に、画像データなどで購入予定の品物を特定し、自動で金額を算出しておき、あらかじめ銀行口座や登録してあるクレジットカードから決済をしておく、といった取り組みが行われていおります。
このように、一部商品の開発から、実際に商品が消費者の手に渡るまでの商流の中の様々なポイントでデータ分析やAiといったテクノロジーが活用されていることがよく分かったかと思います。
それでは、さらに具体的に実際の企業がどのような取り組みを行っているのか、国内の小売企業のDXの取り組み事例を最後にご紹介していきます。
まずは、百貨店のDXの取り組み事例を三越伊勢丹を例にご紹介します。
他の百貨店の例にもれず、新型コロナウイルスの影響で売上を大きく下げることになった三越伊勢丹ですが、強い危機感を元にオンラインでのリモートショッピングを皮切りに続々とDX化を進めています。
古き歴史ある企業だからこそ、いままで積み重ねてきた伝統ややり方が膨大にあるなかで、急激な外部環境の変化に対応すべく下記のような取り組みを行いました。
2020年11月にリリースしたチャットとビデオを組合せ、売り場の販売員が非対面でリアルタイムに接客をするというものになります。購買自体はネットでの決済となりますが、画面を通してリアルな”接客”を感じることで、限りなくリアルに近い購買体験を行うことができるという取り組みとなります。
自身の足の形を3Dで計測することによって、足のサイズだけでなく甲の高さや、足の指の角度などいままでの靴の選定では計測することのできなかった領域までも計測し、自分の足にフィットする一足を探し出すことが可能なサービスです。
一度登録することで、アプリケーション上に自分の足に合ったおススメの靴が表示されオンラインでの購入が可能となります。
上記のように、お客様の上質な購買体験をサポートする為にテクノロジーを駆使してデータを収集、価値提供を繰り返し、良質なデータ基盤を構築して更なる価値の創出につなげていくというと取り組みを進めていることが特徴として挙げられます。
長い歴史のなかで培われてきた伝統を、方法論にとらわれずにうまく転換することができたために実現した事例であると言えるでしょう。
日本国内の深刻な人手不足と、新型コロナウイルスの影響によって不足した人員でも、来店したお客様が安心してストレスなく買い物を楽しむことが出来るように、スーパーの店舗のDXに取り組んでいる事例としてイトーヨーカドーのセルフレジシステムをご紹介します。
4-1. セルフレジ「IYマイレジ」
概要としては、入店時にアプリケーションを起動し、店内のカートにスマホをセットするところからスタートをします。
手元のスマートフォンを用いて、購入したい商品を読み取り、店内を買い回り、最終的には会計時に登録商品内容を転送して、決済を行うというものです。
レジの人員を削減できるほか、従来では最終的にどのような商品を購入したのかという購買の結果のデータの収集しかできなかったものが、購入の順序や、一度バーコードを読み込んだがキャンセルした商品を計測したり、入店してからどれくらい滞在してどれくらいの金額を購入したのか、といった形で様々にデータを収集し活用することが可能となります。
コンビニやドラッグストアでも食品を気兼ねなく購入ができるようになっただけでなく、ECを活用して自宅に居ながら食材を手にすることが出来るようになった現代では、ただ、食品を手にすることが出来るというだけでは、十分な価値提供が出来なくなってきたことは前述したとおりです。
その中でも、変わらず来店する顧客に照準を合わせ、快適な購買体験を生み出そうとする各社の取り組みには今後も期待が高まります。
24時間いつでもどこでも利用が出来、食品の購入から公共料金の支払いまで生活に必要なものを殆ど外得ることが出来るコンビニエンスストアですが、その中でもLAWSONに焦点を当てて、DX化の取り組みをご紹介いたします。
5-1. LAWSON GO
便利さを謡ったコンビニエンスストアですが、決済のわずかな時間すらも無くしてしまうことで更なる利便性を実現するための取り組みが実装されました。
書品を持ったままレジを通さずに決済が可能なウォークスルー決済を導入した店舗LAWSON GOでは、専用のアプリを使って入店し、購入したい商品を手に取って店外にでると、事前に設定した決済方法でレジを通さずに決済が完了するというものになります。
仕組みとしては店内カメラでユーザーの動きを特定し、また、商品が置かれた棚の重量センサーと照合することでどの商品がどれくらい手に取られたのかをAIが識別するというものでした。
米国のAmazon GOをベースに開発されたのは言うまでもありませんが、課題となっていたセンサーをすり抜けて購入できてしまうといった課題や、購入していない商品が誤って決済されてしまうという誤購入の問題などは、センサーの高度化によってカバーされ、人が密集しないなどといった限られた状況下ではありますが、立ち止まらず決済を完了するということが可能となっております。
今後はより高度なセンサー同士を組み合わせることで、どのような状況下でも正確に手に取った商品を誤りなく決済できるようになるという日もそう遠くないかもしれません。
上記でご紹介したように、消費者のライフスタイルの変化によって小売業界でも大幅な改革が必要であることは言うまでもありません。また海外の先進的な事例に則って、日本国内でも既存の購入体験がテクノロジーによってより快適に変化しつつあります。
現状の取り組みは、煩わしい動作が効率化されたり、パーソナライズされた価値の享受といった点が主となっておりますが、そのような取り組みの過程で膨大なデータが蓄積、分析されることで、今までにはない、より大きな価値を生むような取り組みが今後も進んでいくことが予測されています。
各社、データの収集のためのアプリケーションや、デバイスの活用を進めていく中で今後重要になっていく要素は、まさにデータの利活用の領域となっていくでしょう。
収集したデータを十二分に活かし、まだ見ぬ最高の購買価値を創出することで、これからもそしてこの先も、小売業界は商品と消費者を結びつけるという役割を担い続けていく存在となることが期待されています。
これからの各社の様々な取組が楽しみでなりませんね。
それでは、今回はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。