2022-10-05
いままでの記事の中でも触れてきたように、データサイエンスはまだまだこれから活用が進んでいく領域です。
サイエンスという名がつくように、まさに、日々試行錯誤が繰り広げられ実用されるべく日進月歩で進化し続けていく領域となります。昨今になって、実際にデータの活用を行う企業が増えて来ていますが、まだまだ日本全体で活用が盛んとは言い難い状態です。
そのような中で、実際にその日進月歩で活用のための試行錯誤が繰り広げられる現場を見ることで、今後どのような発展が見込まれていくのか、予測を立てることが出来るとも言えます。
今回は、企業のデータ活用の前進として、多数のデータサイエンティスト達と共同でデータ活用を進めるプロジェクトを推進するKaggleと呼ばれるプラットフォームと、その取組について焦点を当てていきます。
1.
Kaggleとは
2.
どういう目的で利用している人がいるか
3.
小売市場の現状
4.
食品小売り業界
5.
食品小売業界の業界動向
6.
Kaggle「店舗販売の時系列予測」
7.
実際の活用に関して
Kaggleとは、データサイエンティスト達が、自分たちのデータ分析力を磨く場として機能しているプラットフォームとなります。
「the home of Data Science & Machine Learning」
と表記されるように、データサイエンスと機械学習の家と呼ばれ、世界中の、機械学習・データサイエンスに携わる約40万人が集まるコミュニティです。
Kaggleの中では、企業や政府などの組織と、データ分析のプロであるデータサイエンティストや機械学習エンジニアを繋げるプラットフォームとして機能しており単純にエンジニアと企業をマッチングするのではなく、コンペも行われ盛り上がりをみせています。
企業や政府などの組織とのコンペとは、企業や組織が競争形式で課題を提示し、賞金と引き換えに制度の高い分析モデルを買い取るという仕組みです。
開催されるコンペは多種多様で、
・住宅価格の予測を行うために、間取りや、駅からの距離等といった複数の要因から、戸建て住宅の最終的な価格を予測する。
・有事の際のTwitterの投稿の有用性に目を付け、災害の発生状況を正しく測定するために、tweetの内容と状況から、自動で災害に関するリアルタイムの情報を収集するアルゴリズムを作る。
・飛行機内のパイロットの状況をリアルタイムで観察し、危険な状態になった場合自動でアラートをあげるアルゴリズムを作成する。
といったコンペが行われています。
このように、実際に企業がどのようにデータ分析を利活用しているのかという一端が垣間見える為、ある意味で業界でのデータ活用の前線の取組みがわかるといえるでしょう。
今回はそのようなKaggleのコンペの中から、食品小売り市場に関する内容を取りあげていきます。
食品小売市場は、大きく分類すると小売市場の中の食品を主に扱う領域に分類されます。
生産元が別に存在し、その生産元から製品を仕入れ、実店舗もしくはECで販売する事で最終的に製品を購入する消費者から利益を得るというのが基本的なビジネスモデルとなります。
そんな小売業界ですが、扱う製品は様々となっており、今回取り上げる食品を始め、医薬品、消費財、機械部品、電子機器等多岐にわたります。
業種の中に、私たちが普段の生活のために必ず購入する生活必需品等も含まれるため、食品や生活用品等、景気の影響をすぐに受けにくい製品もありますが、衣料品等景気の悪化と共に消費が低迷して売上が下がりやすい業種もあり、業界の中でも業績の明暗がはっきりと分かれる領域となります。
そんな小売市場の、2021年の市場規模は、おおよそ、60兆円程となり、売上は140兆円程となっております。
前年比としても1%程の変化の為、2019年以降新型コロナウイルスの影響により、生産者、消費者共にライフスタイルが変化し、従来のやり方からの変化を求められたものの、使われるお金の総量自体は大きな変化は見受けられない状態です。
その中でも変化した点といえば、前述したような消費行動の変化が挙げられるでしょう。
新型コロナウイルスなどの影響で、外出の自粛を余儀なくされたことで、いままでの店舗での購入スタイルとは異なり、インターネット上での通販やデリバリーサービス等の利用がメインとなりました。
その為、実店舗販売が主体となっていた企業は大きな打撃を受けましたが、一方でECに対応し事業の舵をきっていた企業は売上を伸ばしました。
また外出自粛により、家の中での生活を半ば強制される事によってリモートワークやストレスの発散や運動不足の解消など特定の領域に需要が発生する、巣ごもり需要によって、ダンベルなどの機器類や、リモートワーク用のデバイスを扱う機械機器類は売上を伸ばしました。
具体的に売上を伸ばした業種は、機械機器類(ダンベルなど)また無店舗小売(EC等)そして医薬品等となります。
一方で、売上が減少した業種としては衣類関連が挙げられます。
背景としては外出機会が減ったため、ファッションを楽しむシーンが減ったことが大きな要因となります。
上記から、小売業界の特徴として、ある程度食料などの生活必需品も含まれるため、景気の変動によって一部影響はされるものの、比較的堅調な市場規模を持つ特徴があります。
しかし、消費者のライフスタイルの変化が各業種の売上の明暗に直結するため、今回の外出機会の減少というライフスタイルの変化で一躍脚光を浴びたり、大打撃を受けたりと、市場の中での各業種の推移は激しくなっています。
今後は、消費行動として、手軽でかつ、レビューなどによって様々な製品を比較検討することができるという利点を活かし、EC対応をしている企業が売上を伸ばす傾向が続くと想定されており、企業からの積極的な情報発信や、それを支える消費者動向予測のための顧客データの収集や活用が進んでいくと想定されております。
また、購入に当たっての情報収集が重視される延長で、希望のものを購入するまでの購入体験そのものを楽しむ傾向が生まれたという点や、良い物にはしっかりとお金を使っていきたいという消費者動向を捉え、購入体験全体の質を向上する取り組みが盛んになっていきます。
即ち、質の高い体験価値の連続によって、消費者の製品に対して、また企業に対しての、ロイヤリティを高め、継続的な購入につなげていくということがトレンドとなると想定されています。
そのような市場の中に位置する食品小売業ですが、いったいどのような業態があるのでしょうか?
食品小売業は大きく分けて、食品スーパー。コンビニエンスストア、専門食品小売店の3つにわけられます。
1店舗で様々な飲食料品を購入できるという利便性とセルフサービスによる低価格制を強みとしています。
取扱商品は、生鮮三品(成果・鮮魚・精肉)、日配食品(たまご、牛乳)、惣菜、その他一般食品に分類され、中でも生鮮三品と日配食品は消費者ニーズが高く、品ぞろえや、価格設定が業績を大きく左右する傾向があります。
生活必需品を扱う食品スーパーは、景気変動の影響を受けにくい業種ではありますが、近年はコンビニエンスストアや、ドラッグストア等との競争が激しくなっています。
コンビニエンスストアは長時間営業を強みとし、フランチャイズシステムを採用しているため、各店舗が均一に運営されており、商品は定価販売が原則となります。
店舗ごとの差別化が難しく、収益は立地条件に依存するため、商圏人口の多い地域には、コンビニエンスストアの出店が集中し、同業者間の競争も激しくなります。
専門食品小売店は、八百屋や魚屋、精肉店等、同一種類の飲食料品を中心に小売する事業所であり、長期にわたって地域の生活インフラとしての役割を担い、飲食料品の中心であり続けましたが、昨今では、食品スーパーや、コンビニエンスストアの対等により店舗数、販売額ともに減少傾向にあります。
そんな業態が存在する食品小売業ですが、動向としては、それぞれ下記のようになっております。
食品スーパーは、ドラッグストア等他業態との競合激化によって、2019年において販売額は増加しているものの、増加率は0.2%まで低下し、成長が鈍化しています。
2020年においては、新型コロナウイルス流行による、リモートワーク増加や外食自粛などによって、自宅で料理をする人が増えたことで、食品スーパーにおける販売額が増加しており、そのような状況下で、どうように食品ネット通販(食品EC)の市場が増加しております。
また、仕入原価の高騰によって利益が下がることもあり、介在する人件費を削減したり、オペレーションをより効率化し、生産性を高めるためのスマートレジ等の取組も進んでいます。
コンビニエンスストアは、本部と加盟店との関係改善を進める動きが活性化しています。
以前より、加盟店契約の内容が、加盟店オーナーへの負担が大きいことが問題視されており、24時間営業を廃止する店舗数が増加しており、両者の関係が転機を迎えている現状があります。
また、店舗数の増加が頭打ちとなっているため、コンビニ各社で様々なPRを行い、消費者の購買機会の獲得に力を入れつつ、取扱商品を増やしたり、利益率の高いPBを扱うなどで、消費者の一回当たりの購買における利益の獲得の増加に力をいれています。
その為、需要予測の重要性が高く、在庫ロスが発生しないよう店舗の購買履歴データや顧客情報データを活用して、仕入バランスの調整に各社力をいれている傾向があります。
まとめると、食品小売業も、小売業全体と同じ、EC化、体験価値の向上によって、消費者の利便性の向上や、ロイヤリティを高めることで中長期的な購買を促す取り組みが主流となっているとともに、食品ロスや、人件費等の間接的なコストの削減に力を入れるためのデータ活用やデジタル機器の導入が進んでいるというのが、各食品小売業の業界動向といえるでしょう。
さて、上記でも話に合ったように、消費者需要の予測は食品小売業にとって生命線になるといっても過言ではありません。
仕入が食品である以上、賞味期限が存在し、品質基準が厳しくなる昨今では厳格にその期限を守らねばなりません。
その為、需要を読み間違えると多数の在庫処分を発生させることになり、費用面での無駄だけに留まらず、環境への問題なども引き起こしてしまいます。
今回kaggleの事例で取り上げるのは、そのような問題を未然に防ぐための需要予測に関する内容となります。
実際にkaggleのコンペで扱われた内容としては、エクアドルに本拠を置く、食料品小売会社Corporación Favoritaのデータに基づいて、店舗の売上を予測するというものでした。
実際にストアに置かれている何千もの商品の販売数を正確に予測するモデルを構築するために、日付、店舗情報、プロモーション情報等、複合的に分析しながら、どれくらいの来場が見込まれ売り上げが見込まれるのかを予測するのですが
その予測精度が高まることで、あらかじめどの商品をどれくらい仕入れておくことが望ましいか、という需要予測へと繋がり、食品の廃棄や在庫ロスを防ぐことに役立つことが期待されています。
上記のような需要予測ですが、実際に製品化され導入も進んでおります。
例を挙げると、NECが開発したスーパーマーケット向けAI需要予測ソリューション「DCMSTORE-DF」が挙げられます。
同社のシステムは、スーパーマーケットの発注業務が熟年者の経験則による点が多く、属人化が発生している点や、慢性的な人手不足、食品ロスや欠品などの問題を、AIによる需要予測によって、適正な販売数の注文を可能にし、さらに発注作業も自動化することで、発注業務の属人化から脱却、業務の効率化や標準化に貢献するというものです。
AI技術として「異種混合学習」という学習方法が用いられており、多種多様なデータのなかから精度の高い規則性を自動で発見し、その規則に基づいて需要予測を行うことで、店舗ごと、商品ごとにきめ細かく対応することが可能となっているとのことです。
また、発注業務システムとの組み合わせによって、扱う商品のカテゴリに合わせて発注方法を変更し、現場負担を軽減するなどの連携も行われております。
具体的には、販売期間短い生鮮食品に関しては、日々の販売数に応じて在庫を最適化する需要予測方式での発注方法を自動化し、また販売期間が長期となり、単品での在庫管理が必要な加工食品や日用雑貨などにおいては、納品回数を少なくし、補充作業を軽減するために税故基準方式での発注方法の自動化を行うといった具合です。
また、予測と実状のズレを常にモニタリングし、予測精度が下がった場合にはAIによる自動再学習機能によって予測モデルの見直しを行い、常に高精度な需要予測を行うことも可能です。
いかがでしたでしょうか。
このようにKaggleのコンペの内容を見ることで、発行元の会社の業界内での戦略や置かれている状況について、大枠の様子が見えてきます。
次回以降もKaggleのコンペを中心に多種多様な業界の取組の紹介や業界でのデータ活用の様子をご紹介していきますので、どうぞお楽しみに。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の記事でまたお会いしましょう。